出版社 講談社
著者 永田 晟
最初にこの本の副題の答えを書いてみよう。
そもそも呼吸とは何のために行われるか、それは体内の炭酸ガスを排出し、酸素を取り入れるためであると紹介されている。どんな生き物もそうであり、人間も例外ではない。酸素を取り入れることは簡単で空気を吸い込めばいい。逆に、炭酸ガスの排出には少しコツがいる。体内の空気をしっかりと吐き出すことだ。しっかりと息を吐き炭酸ガスを排出することによって呼吸が正常に行われる、逆に吐き出せていないと、体内に炭酸ガスが溜まり、呼吸ができているにも関わらず、息苦しく感じることすらあるというのだ。「なんだ、簡単じゃないか」と思う人もいるかもしれないが、これがなかなか重要なのだ。かなり簡潔に述べると、1回の吐く息では体内の空気を全て吐ききることはできず、かなりの割合が残っている。このおかげで一定時間息を止めることが可能になっているというメリットにもなっているが、その分空気の入れ替えという点ではあまり空気の交換ができていないということにもなる。なので、体の空気の入れ替え、つまり炭酸ガスの排出をしたければ、息をたくさん吸うのではなく、たくさん吐くことによって体の空気をより効率的に入れ替えられる。これこそが、吐く息が大切という理由の大きな要点だろう。
他にも、いくつか面白いことを知ることができた。まず、呼吸の強化のために持久力を鍛えるトレーニングをしても、一回で吸う量や吸える回数はそれほど増えないというのだ。もちろんそれらも鍛えられないわけではないが、1番鍛えられるのはその呼吸で得た空気や体から排出される炭酸ガスをあつめる循環機能が鍛えられるそうだ。
腹式呼吸が精神的なリラックス状態を作ることができるというのは近年周知の事実だが、年を取るその腹式呼吸が上手くできなくなるらしい。単純に、老化によって呼吸するための筋肉が衰えるというせいでもある。さらに呼吸には血圧を上下させる効果もある。長く深い呼吸は血圧を下げ、逆に短く浅い呼吸は上げる効果がある。つまるところリラックスをしているか緊張しているかであるが。
厳密にいうと呼吸とは異なるだろうが、かけ声を上げると筋力等の精神的限界を超えられるというものがある。簡単に言えば、普段は10キロのダンベルをギリギリ持てる程度の人が、「フンッ!」といった声をあげることによって11、あるいは12キロのダンベルを持つようなものである。人の体にはある種のリミッターがあり、普段では超えられないその限界を、掛け声を出して少しだけ引き上げるのである。ただしこれは、あくまでも心理的な高まりで限界を引き出しているのであって、肉体的な限界とは関係がない。掛け声によって心理的な高まりを求めているのであって、声の大小とも関係がない。また武道をやっている人は知っているだろうが、息を吐いているときは反応が遅れるのである。息を吸っているときは緊張状態になっているが、逆に吐いているときはリラックスした状態であるからだ。
あとは、吹矢というスポーツがこの世に存在していることに結構驚いた。まぁ忍術を教える道場があったり、チャンバラがスポーツになっているんだし、吹矢もスポーツになるよなと思ったり、思わなかったり……
また、本の最後には呼吸に関するトレーニングがいくつか載っている。あくまで呼吸が弱ってきた人向けのトレーニングなので、高負荷のスポーツをバリバリやっている人が息切れしなくなるトレーニング!みたいなものではないのでご注意を。
自分の身のことであるが、呼吸というのもとても意味のある行為で、いろいろな効果を持つ。あらためてそのことを実感させられた1冊だった。